20歩の逸脱

いつもの出口から駅を出た。改札を出て真っ直ぐバスロータリーへ。これもいつも通り。雨は上がっていたが次のバスまで15分もあった。

いつもならそのままぼんやり突っ立っているのだが、寒くて仕方ないので引き返し、駅の別の出入り口になっている本屋へ入った。何年かぶりの店内は改装で小洒落たふうになっていたが、相変わらず買いたいものはなかった。俺は本屋に入るときは基本的に何かを買いたい気持ちでいる。しかし自己啓発本やビジネス書を買って読むくらいなら…してるほうがマシだ。…に当てはまる気の利いた単語が思いつかない。首を振りながら店を出た。そこで足が止まった。見たことのない景色だった。

いつもの出口からほんの20歩ほど左の位置に俺はいた。そこからの景色を俺は知らなかった。
毎日こっちを眺めてはいた。それこそもう何年も。乗るのもうんざりなバスをうんざり待ちながらいつも眺めていた場所に、気がつくと自分が突っ立っていた。舞台の描き割りだとか、よく知ってはいるが好きでもない絵のなかに入りこんだような、そんな妙な気分だった。
(それにしても、仕事から解放されても同じ道筋のみを歩くような無関心と倦怠が普段の俺を支配している。これは恐ろしいことではないか。)

何年か前に我が駅前広場は、駅が吐きだす客を大型の商業施設が囲い込むような格好に再開発された。反対から見たところで、広場じたいはのっぺりとして退屈なしろものだった。張りぼてじみた建物に囲まれて空が見えた。それもどんより曇っていた。

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