日付けのいらない日記

昨日は珍しく1日じゅう集中してたし、よくケアもした。いろいろも先回り気味で片付けた。
そういう日の終わりはなぜかかえって安心から遠い。バーボンをがんがん飲んでわりと簡単に安心してから餌を用意し、平らげ、またバーボンを飲んで寝た。うちに酒に入れる氷や水はない。お宅もそうですか。それはただの奇遇ですな。

3時半に起きた。王将に入って餃子、焼きそば、ライスを注文する夢だった。考えうる限りの最高のチョイスだと思ったが炭水化物ばかりだ。今度王将に入ったらそのまま注文する。その後はアラームが鳴るまで半覚半睡で、起き上がってからも動作は遅く、いつも通りのバスにいつも通りぎりぎりで乗って出勤した。思えば俺は小学生の頃からずっと朝走ってる。起きた時間に関わらず、ほぼそうなる。誰が好きこのんで乗り込んだ電車で貧血を起こすというんだ。

職場では昨日に増してよく働いた。いつになく快活に、抜かりなく、細やかに。ただし、ときどき唐突に頭を振ってた。その衝動はいつでもあるが、実際に振るのは何かのサインだ。俺はそれが何のサインかは知らないし、人には見られてないつもりです。
こういう日の俺は帰路でも元気いっぱいだ。具体的に言うと電車の中がなんか眩しいし、ドルビーよりサラウンド効いてるし、隣の肥満体が獣臭い。そいつがいる左側の肩は起きながらにして寝違えていくみたいだし、吊革にぶら下がる俺の喉の奥にさらに鉛の塊みたいのがぶら下がってる。広告の字がうるさい。何してる訳でもないのに視界に入ってきただけで蹴りたいやつがいる。そこらじゅう字だらけだ。UFJ銀行のマークは眼に似すぎているからあまり大きくしないで欲しい。マゼンタの服を着ないで欲しい。目の前で手をひらひらしないで欲しい。

この程度のことなんて誰しもが日々飲み込んでるんだろう。俺はそれをぴいぴい吐き出す。それを言い表そうとしてるあいだは少し気が紛れる。誰にも言うべきでないのはわかってるし、だからちゃんとここに書いた。付言するとバスに乗り換えても眩しかった。いまはちゃんと家に着いてる。あとはバーボンがやってくれる。

臭いと分別

部屋のどこからか嫌な臭いがした気がして、あちこち嗅ぎ回る。臭うものはない。ものでないなら自分かと、自分の身体じゅうを確かめる。件の臭いはしない。気のせいかと思うとまた臭った気がする。あちこち探し回る。部屋に臭うようなものはない。
ほんとうは俺が臭いのに、その臭いに嗅覚が麻痺しているのではないかという考えが頭をよぎる。自分の臭いはわからないと言うではないか。
嫌な臭いがしたことは疑いえない。部屋に原因は見つからない。おかしいのが俺の鼻なり頭なりなのだとして、ありもしない臭いを知覚するよりは、絶えず晒されている臭いへの感覚が鈍磨しているほうがよほどありそうに思える。それが何かの拍子に少しだけ戻って、それは嫌な臭いだった。
部屋の臭いも慣れっこになるだろうが、曝露時間によって感覚の鈍磨が起こるならば、俺は俺の部屋よりも俺自身に晒されているわけだし、部屋の臭いよりも自分の臭いのほうががわからない可能性が高い。
やはり、俺はじつは嫌な臭いがしていて、その臭いがわからないのではないか。一人きりのこの部屋で、この疑念を解く術はない。
仮に他人に訊いてみるとする。「俺って臭くない?」…こんな質問をする相手は、他人のなかでも最上級に親しい他人であろう。「うん、臭い」と言われても「まじかー。やっぱ臭いかー」と言えるような。
そいつが「そんなことないさ、気にしすぎだよ」と返したとして、最上級に親しい他人というのは俺に優しいに決まっているので俺に気を使っている可能性がある。よって俺が臭いことへの疑念は解けない。
もし最上級に親しい他人が俺の臭さを認めたなら、俺は臭いという動かし難い事実が生じる。疑念は解決をみるが、問題の臭いがわかるようになるわけではない。

予告された忘れ物の記録

野外環境整備の講習の帰り。俺は電車に乗る前に土のついたズボンを替えようと思って、トイレの個室に入った。
向こうでさっさと着替えておくんだったと思いながらドアのフックに背負ってたザックを引っ掛けた。

汚れたズボンのポケットにはタバコとケータイとサイフが入っていた。トイレ個室の隅にある物置きにそれらを置きながら、ここに置いた、忘れるなよと思った。
(タバコ・ケータイ・サイフ・カギ。これは俺が外出前にいつも唱える呪文で、ズボンのポケットに入れているものだ。今日に限ってカギはキーホルダーの携帯灰皿を使うためにザックのカラビナにつけていた。)

ズボンをはき替える際、俺はズボンの裾が床のタイルに触れないように注意を払わなくてはならなかった。不安定な片足立ちのあいだ、ドアにもたれ掛かることでなんとかうまくやった。はきかえたヘンプのズボンの皺が気になった。

脱いだ手でたたんで壁面の手すりに乗せた作業ズボンには土が付いている。それをそのままザックに入れるわけにはいかない。ザックからビニール袋を取り出そうとしたら、それに引きずり出されるかっこうで、昼間飲んでいたコーヒーの空き缶が床に落ちた。カッカランと音がした。電車に乗る前に捨てようと思った。
作業着を詰め込んだザックを背負い、空き缶を片手に個室を出た。鏡の前で帽子をすこし直した。

トイレを出ると電車が来ていた。
いちばん後ろの車両のいちばん後ろのドアに駆け込んだ。空き缶を持ったままの俺の後ろでドアが閉まった。


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 あとは人の不幸が好きな向きにはつまらない話だ。席について血の気が引いた。あすこに置いた。それは、忘れてなかった。しかし、俺のズボンのポケットは空っぽだった。車掌さんに、"さっきの駅のトイレにケータイと財布を忘れたので、駅員さんに今すぐ連絡してください"と頼んだ。わかったと言いつつ、彼は次の駅で俺が降りるまで連絡はしなかった。到着駅名のアナウンスのほうが優先順位が上なのだろう。
降りた次の駅は無人駅だった。ひどい気分で引き返す電車を待った。電車の中では走りたいような気分だった。
もといた駅に着くと、まずトイレを確かめた。もうなかった。続いて改札へ。駅員室の窓から見慣れた皮財布とiPhoneが見えた。
素早く回収してくれた親切な駅員さんにお礼を言い、受け取りのサインをして、財布の中身と照合してもらい、返してもらった。それで帰って来られた。










30秒以内にボタンを押せ、と、それは言った。

今朝、身体がだるいので、ダイドーの喋る自販機で100円のアスパラドリンクを買ったら、"もう一本オマケ" が当たった。みんなは当たったことがあるものなのだろうか。僕は生まれてはじめてです。恐る恐る2本目のアスパラドリンクをもらいました。

そのあと僕は、昼前から頭が痛くなり、背中が冷たくなり、鼻水が垂れだし、ゾンビに噛まれた人がゾンビになっていく確実さでもって風邪ひきの病人に変身していきました。夕方に帰ってからは寝込んでいます。
ちなみに今日は用事で午後休でした。僕は休みにだけ風邪をひく呪いがかけられている。

独り身の風邪は辛いものです。(食事の用意くらいのことですが。)  
当たったアスパラドリンクは(もの言うけど)もの言わぬ機械、あるいは、録音音声を話すだけの原始的ロボットであるダイドーの喋る自販機が僕にくれたお見舞いだった。
明朝出勤前に飲むつもりです。

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祝福してやる

上半期の山を越えた、たぶん。だから機嫌が良い。たんに夏だからかもしれない。

素晴らしい、それは素晴らしい日々がおれをまっている。お前を待っている。おれが請け合う。いいから信じろ。

仕事すればやり手、描いた絵は売れて、バンド始めればモテモテ、背表紙で本の内容を理解、食欲湧き、身体大きくなり、寝つき良くなり、寝起きも良くなり、起きれば自然なお通じがあり、お化粧のノリも良くなり
両親仲良くなり、あいつとあの子はよりを戻し、金縛りに合わず、未明に目覚めず、無明に惑わず、無表情で過ごさず、不幸を見過ごさず
うっかり懸賞に当たり、家は西麻布あたり、胃炎快癒し、腱鞘炎緩解に向かい、頭冴え、身体にキレ、いやな縁も切れて、家に金を入れて、洗濯物は干すなり乾いて
耳鳴りが止み、外に出れば雨止み、心澄み渡り、きちんと青信号で渡り、空は晴れ渡り、そこを鳥が渡り、それはどこまでもどこまでも晴れ渡り…

…そんな素晴らしい日々がおれを待っている。
おまえを待っている。
もう一度いう、おれが請け合う。

一人乗りの潜水艦

乗りこむのに特別な資格は必要なく、これといった訓練もない。ただし、航行中そこらじゅうに穴が開く。水が入ってくる。そらそこにも開いた、はやく塞ぐんだ、ひよっこめ。艦長が叫ぶ。乗組員は他にない。塞ぐ道具も材料もない。両手両足では追っつかず、肘や膝、果ては尻や頭を壁に押し付けて凌いでいる。背後からちょろちょろと音がする。背中を後ろに押しつけると、左の膝が穴から離れてしまう。真下からも水が湧き出した。まるで澄んだ泉のようだ。艦長は叫ぶ、本艦は…!乗組員が続ける、…限界であります!

浜辺。悪童たちがよく揃ったハードル走のフォームで波の頭を跨いで駆けてくる。遠浅で揺れる奇妙な張りぼてを蹴りまわす。小便をかける。銛で滅多刺しにする。