夕刻

夕刻、スーパーの前のテラス。焙煎機を世話してるいつものコーヒー売りのおばさん。オレンジ色の浮いたバンダナ、白い猫の描かれた黒いエプロン。こういう業態もやるコーヒー豆屋のパートさんだろうか。時間的に、きょう最後の焙煎だろうなと思いながら、少し離れた喫煙スペースで僕は煙草を吸っていた。

「姉さん、もうそんなんせんでええやろ」

「せやで、売れ残るだけやで」
と、テラスのテーブルでビールを飲んでる爺さん達が言った。

「わかってるわ、決まりやねんからしゃあないやん」

おばさんも親しげに返していた。いつもの会話という雰囲気だった。

ここで目が覚めた。

経営者が変わったあのスーパーの前に今はテラスはない。いつも鯛焼き屋とか包丁研ぎとか、よくわからない雑貨屋とかが来ていた。

気にも止めたことはなかったが、コーヒー豆屋の記憶はない。焙煎機も、エプロンも、テーブルも、爺さん達も。