死にゆく鹿のために

くたばる 山の中、不具の鹿
分かっていたこと 遅かれ早かれ
 
潤んだ眼玉が最後に残った
虚ろで生臭そうな
血走った眼玉

そこから開ける視界が
何かを見つめる意識が
もしも鹿に残されたとして
そこに神秘はあらわれるか
哀れな鹿を救い給うか
 
木の根、土くれ
もはや伸ばすこともない
屈めた前脚
煩い羽虫
鼻をくすぐる邪魔っけな草もあるか知らん、よくあるものだから
あるものだけがあるから

 そんなものを死に際に
鹿は驚きを持って見るだろうか

そこに神秘はあらわれない
それらが帯びる光などない
俺はそう信じる
 
そのような鹿を良く死んだと
見るものもいない山の中
頭のなかの山の中

そんなところでわけも無く
ときどき死んでゆく鹿のために
誰かがわざわざ悼むこともない